避難小屋 深呼吸して 寝入るだけ 真っ黒な中 切れる風音

  

 寝具がない。

 照明がない。

 食事がない。

 管理人がいない。

 それが避難小屋だと思っていたが、あるとき管理人がいた。申し合わせ寄付金としてボックスに2000円入れるべきところ、その自称管理人は2500円を請求してきた。サービスは何にも変わらないのに。後で触れるたった一つを除いて。

 その夜台風来襲の予報が出ていた。それなのにわざわざ福島県にまで出向いた理由は、すでに飛行機の予約を済ませていたからだ。もしかしたら台風がそれるかもしれないとさもしい根性が出た。

 その夜予報に違わず強い風が吹き激しい雨が襲った。いつも通り山小屋は寝るしかなかった。

 朝が来た。5時頃だったろうか。自称管理人が完全装備をして、泊まっていた二組のパーティに宣言した。「台風が直撃します。今から私は避難します。」これがいつもにないサービスといえばサービス。

 宿泊者へのアドバイス(例えば「早く下りてください。)も気遣い(例えば「みなさんお気をつけて」)も一切なかった。

 我々の選択肢は二つ。すぐに下山するか、しばらく様子を見るか。後者は致命的なミスにつながる可能性があった。もう一つのパーティは、議論した形跡もないまま下山準備にかかり、「どうも」と言ったきり、下山した。格別我々に意見を聞く風はなかった。もちろん朝の挨拶をするような余裕はない。

 結局その後我々も下山した。その日の午後当地の県警から安否確認があった。登山届は提出されているのに下山届が出ていなかったためだ。必死の下山だった。

              飯豊山

              


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