殺戮者(壬生義士伝より)

 

 新撰組の幹部斉藤一のこと。新撰組の対立組織高台寺党に間諜として潜り込んだ。その時の新鮮組との連絡方法は、石塀小路に囲っていた女だった。9ヶ月後斉藤は役目を終え、女との絶縁を宣言した。高台寺党殺戮の責めが女に及ぶことを恐れたためで、有金全てを渡した。女はそれを断り、一夜を共にすることだけを求めた。翌朝この女は坪庭の槙の木に首を絞って死んだ。

 この話は斉藤の述懐として語られるのであるが、途中このような記載がある。「ああ、名はなんと言うたか、失念した。」

 そして、この下りの最後の1行は次の通り。「名は、失念した。」

 失念するわけはない。しかもそれを繰り返すわけもない。

 これが浅田次郎の表現方法です。


      ふと戻る 70年前 幼き子 台風の来たりて 屋根吹っ飛ぶ









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